専門医に聞く!手のふるえと治療法

2021年4月8日
つらい。
手のふるえの病気のおはなし
つらい。
手のふるえの病気のおはなし
鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科
脳神経外科 吉本幸司 教授
  • 【保有資格】
    日本脳神経外科学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本脳卒中学会専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科(脳神経外科)専門医
  • 【略歴】
    平成7年3月 九州大学医学部医学科卒業。九州労災病院 脳神経外科医師として勤務後、九州大学大学院医学研究院脳神経外科にて助手、助教、講師、准教授職を務めた後、平成30年4月より現職就任。平成16年には、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA) に病理学教室博士研究員として渡米。
  • 【学会活動】
    日本脳神経外科学会 九州支部 理事
    日本脳腫瘍学会 理事
    日本脳腫瘍の外科学会(評議員)
    日本間脳下垂体腫瘍学会(監事)
    日本脳神経外科コングレス (第41回学術総会会長、脳神経外科ジャーナル副編集委員長)
コップや箸を持つ手がふるえる。
これは歳のせい? 緊張しているから? 寒いから? それとも病気?
多くの方が抱えている不安と疑問。鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・脳神経外科の吉本幸司教授に話を伺いました。

手のふるえの原因は?

箸を持つ手がふるえます。これは何かの病気なのでしょうか?
大勢の人の前で緊張したり、寒気を感じたりすると人はふるえます。いずれも老若男女を問わず誰しも経験があることですよね。
しかし、こういった自然な現象ではない、病気(疾患)が原因で起きるふるえがあります。脳卒中やバセドウ病などの影響もありますが、代表的なものは「パーキンソン病」と「本態性振戦(ほんたいせいしんせん)」です。“箸を持つ手がふるえる”、とすると、本態性振戦である可能性があります。
パーキンソン病という名前は聞いたことがあります。
ではまずパーキンソン病のほうから説明しましょう。
脳内の黒質にあるドーパミン神経細胞の障害によって、ゆっくりとした動き(動作緩慢)、筋肉のこわばり(筋強剛)、手などがふるえる神経変性疾患の病気です。
ちなみに手のふるえは何もしていない時に起きる(安静時振戦)のが特徴です。うつ病や睡眠障害、認知症も発症する場合があります。
 若い方も発症することがありますが、高齢者に多い病気だといえます。
本態性振戦というのは聞き慣れないのですが……どんな病気なのですか?
“本態性”というのは原因不明という意味です。“振戦”はふるえですね。つまり、原因はわからないが、ふるえが起きる病気のことです。コップや箸を持った時など、何かの動作をした時に起きる(動作時振戦)ものです。この病気もまた若い方も発症することがありますが、高齢者に多い病気といえます。
ふるえは手だけでなく、頭、声、足にも起きます。しかし、ふるえ以外には痛みやしびれなど他の症状はありませんし、命にも別状はありません。だから病気としての認知度がとても低いんですね。たいていは「緊張しやすい性格だから仕方ない」とか「もう歳も歳だからそうなのだろう」といった理由で、病院に行く人が少ないわけです。
命に別状はないとはいえ、本人にしてみれば日常生活の中で不便さを強いられる場面が多いですよね。
そうですね。コップや箸を持つ時以外にも、スマホやATMの操作も不便でしょうし、包丁でお料理する時やはさみを使う場合は怪我をする危険性もあります。
ゴルフクラブを持つ手がふるえてしまうから、唯一の趣味を断念したなんてお話もあります。そんな辛い思いをされている患者さんはたくさんいらっしゃるでしょうね。

どんな治療をすればいいのか?

では、ふるえを改善するにはどうしたらいいんでしょうか?
まずはお薬による治療から始めます。パーキンソン病の場合は、不足したドーパミンを補う薬を使用します。本態性振戦のほうは、交感神経遮断剤や抗てんかん薬を使って、ふるえを抑えます。
薬の副作用などは大丈夫なのでしょうか?
パーキンソン病に使用するドーパミン製剤ではジスキネジア症状(意思とは関係ない体の動きが起きてしまう症状)が出ることがあります。また本態性振戦の際に使用する交感神経遮断剤は、心機能への影響、めまい、倦怠感といった症状が出る場合があります。こういった場合、専門医は薬の量を調整するなどして対処をしていきます。
 また、パーキンソン病も本態性振戦もどちらも進行性の病気です。やがて薬の効き目が弱くなってきたり、効いている時間が短くなってきます。そうなると、次は手術療法を検討します。
手術はどんな内容なのですか?
ふるえの治療は、脳内の深いところにある“視床”という部位に対して処置をします。手術方法にはいくつか種類がありますが、代表的なものを3つ、ご説明しましょう。

①RF(高周波凝固術)
頭蓋骨に穴を開けて凝固針を視床に刺し、組織を凝固する。効果は長続きする。副作用として、まれに言語障害や麻痺が起きる。手術時間は2時間程度。ただし、この治療は原則として片方の手のふるえに対してのみ。

②DBS(脳深部刺激療法)
高周波の電気刺激を起こすことができる電極とペースメーカーを、それぞれ頭蓋内と体内に埋め込む。手術時間は7~8時間ほど。患者の症状に応じて電気刺激量を調整できるメリットがある一方、機器の体内埋め込みによる感染症リスク、充電や電池交換の手間がかかる。両手のふるえに有効。

③FUS(MRガイド下集束超音波治療)
頭蓋骨を透過する超音波を多方向から病巣部に一点集中照射し、組織を熱凝固する。患者は麻酔で眠らず、治療中も医師と会話をし、効果を確認しながら行うことができる。頭蓋骨に穴を開けたりしないため感染症リスクは少ないが、超音波を透過しやすくするため頭髪の全剃毛が必要。頭蓋骨の密度などの原因で治療効果が期待できないケースもある。まれに副作用として言語障害や麻痺が起きる。保険適用は片手のふるえのみだが、自費治療でもう片方の手のふるえに対する治療を行うこともできる。手術時間は3~4時間程度。入院期間は短くて済む。

以上のような方法があります。③のFUSは近年登場した新しい治療法です。公的保険や高額療養費制度の対象にもなっていますから、費用面でも受けやすくなっています。患者様の年齢、体力、症状などを考慮しながら、最適な方法を医師と相談していただければと思います。

あなた自身、もしくは周囲にふるえで困っている人がいたら

いろんな治療法があるんですね。でも脳の深いところの手術となると、やはり不安が大きいですね……。
とにかく我慢しないことですね。また、不安を少しでも減らすためには、脳神経系の専門の知識や経験を持つ専門医にかかることが重要です。治療についてはのちのち考えるとして、まずは専門医に症状を相談してみることから始めていただければと思います。「歳だから仕方がない」とあきらめたり、「しばらく様子をみる」などと先延ばしにすると、病気だった場合に進行してしまいます。
そうですよね。まずは専門医に相談してみることが大切ですね。
とにかく一人で悩みを抱え込んだり、がまんをすることが良くありません。例えばアルコールで一時的にふるえが収まることがありますが、紛らわせようとして頼ってしまうと、病気の進行に加えてアルコール依存症という悲劇まで生まれてしまう危険性があります。
 ご本人でなくとも、周りに困っている人がいたら、ぜひ「お医者さんに一度相談してみたら?」と声を掛けてあげてください。ご家族や周囲の方々の理解とサポートも重要だと思いますね。専門の先生はいつでもお話を聞いてくれますよ。