手が震えてなんだか字が書きにくい、コップを持つ手が震える……。手や頭の“ふるえ”が気になるけど、「歳のせいだろう」「たいしたことはないだろう」と放置していませんか? もしかすると、そのふるえに病気が潜んでいるかもしれません。
ふるえの原因や考えられる病気について、新百合ヶ丘総合病院・脳神経内科部長の眞木二葉先生にうかがいました。
新百合ヶ丘総合病院脳神経内科 部長
Q最近、箸を持つ手が震えるようになりました。家族や友人から「頭が震えている」と指摘されることもあります。原因は何でしょうか?
Aふるえの原因は、大きく分けて生理的なものと病気によるものがあります。生理的なふるえは、寒いときや恐怖を感じたとき、人前に出て緊張したときなどに細かく震える一時的なもので、誰にでも起こり得ます。
一方で、中には病気が原因で生じるふるえもあります。代表的なものをみてみましょう。
「本態性」は「原因不明」、「振戦」は「ふるえ」を意味し、その名の通り明らかな原因がわからないふるえが生じる病気のことです。最も多いのは手のふるえで、他にも頭や声、脚などが震えることもありますが、ふるえ以外の症状はありません。字を書く、コップを持つなど特定の動作をするときに震えるのが特徴です。
脳の異常により、筋肉の動きがうまく調節できなくなる病気です。本態性振戦と違い安静時に手足が震えるほか、動作が鈍くなる、筋肉が固くなる、歩きにくくなるといったふるえ以外の症状もあります。初期は体の片側にだけ症状が出ることが多く、右手と右足が震える、といったことが起こり得ます。
甲状腺ホルモンを異常に作りすぎてしまう病気です。手先のふるえ、動悸、発汗、眼球突出などの症状がみられます。
最も多いのが「本態性振戦」で、国内に約300万人の患者さんがいるというデータがあります。受診していない方なども含めると、日本人の約4%が罹患しているとするデータもあります。
同じく神経の病気である「パーキンソン病」の患者さんも多く、65歳以上の方の100人に1人が発症するといわれています。
まれではありますが、飲んでいる薬が原因でふるえが生じる、突然手足がゆれるような震えが出現し救急搬送され検査してみたら脳梗塞だった、というケースもあります。
Q症状が出やすい年齢はあるのでしょうか?
A本態性振戦は20歳代と60歳以降に発症のピークがあると言われています。ただ、高齢の患者さんに詳しくお話をうかがってみると、若い頃から症状があったという方が多くいらっしゃいます。実は、症状があっても受診には至らない若い患者さんが多いのかもしれません。若い方でも、ふるえに困っていたら早めに受診していただきたいですね。
Q特に若い方は、多忙などで受診しづらいかもしれません。ほかに受診に至らない理由はあるのでしょうか?
A幼少期から「病気ではない」と思い込んでいた、自分ではふるえに気付いていなかった、という話も時折耳にします。
例えば、本態性振戦は家族や親族で同じ症状がみられることがありますが、ご家族から「うちの家系は緊張すると震えやすい体質だ」などと言われ気にしていなかったという方がいました。また、自分はふるえに無自覚だったが周囲の人から指摘され、気になって受診したら本態性振戦と診断された、というケースもありました。
Qただのふるえかと軽く見ていましたが、病気が隠れていることもあるんですね。どういった症状があるときに病気を疑って受診するといいですか?
A以下に当てはまる項目がある場合は、一度医師の診察を受けることをお勧めします。
何か特定の動作をするときに手が震える
(字を書くとき、箸やコップを持つときなど)
何もしていないのに手が震える
体の片側だけ震える、ふるえに左右差がある
頭やあご、脚がふるえる
ふるえと同時に発汗や動悸がある
突然体が大きく震え、意識がもうろうとしている
自分だけでなく家族や親族にもふるえの症状のある人がいる
Q当てはまる項目がありました。日常生活も不便ですし病院を受診したいのですが、どこにかかればいいのでしょうか。治療の大まかな流れも教えてください。
Aまずはお近くの医療機関で脳神経内科にかかりましょう。
初めの問診では、ふるえが起こりやすい状況や現在飲んでいる薬などをうかがったあと、簡単な検査として指先を動かしたり字を書いたりしていただきます。必要に応じて、血液検査やMRIを用いることもあります。
検査で病気と診断されたら、症状をやわらげる薬を試していただくほか、薬だけで改善しない場合は手術を提案することもあります。残念ながらパーキンソン病に関しては、病気を治したり進行を遅らせたりする薬はないのですが、ふるえの症状が改善するだけでも日常生活が送りやすくなるでしょう。
Q症状をやわらげる治療もあるんですね。ふるえという症状だけで受診していいものか迷っていましたが、一度病院で診てもらおうと思います。
A「脳神経内科」というと敷居が高く感じるかもしれませんが、固く考えすぎず、ふるえが気になったらお気軽に相談ください。まずはお近くのかかりつけ医に相談するのもいいでしょう。他科で緊張しやすいだけと言われた方も、症状が改善しない場合は脳神経内科に来ていただきたいですね。
私はこれまで、ふるえに悩む多くの患者さんを診てきました。毎日のちょっとした動作に違和感がある方、調理師の仕事が続けられなくなった方、パソコンを使う業務が難しくなってしまった方、周囲からふるえを指摘され傷ついてしまった方――。
私たち医師は、そういった患者さんの心身のつらさを解消したい、という思いで診療にあたっています。長年ふるえに悩まされていた患者さんから、「もっと早く受診すればよかった」と言っていただいたこともあります。病気ではないだろうと決め込まず、生活の不便さや心のつらさを感じている方は、ぜひ医師に相談してみてください。