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手のふるえで受診したいけど…

何科に行けばいい? どんな検査をするの?

手が震えて困っている場合、
受診から治療までの大まかな流れとは。

手やからだのふるえには、本態性振戦やパーキンソン病といった病気が潜んでいる可能性もあります。治療のためにもまず医療機関を受診することが重要ですが、診察では何をするのでしょうか?

受診から検査、治療までの一連の流れを、宮城病院・脳神経外科部長の仁村太郎先生にうかがいました。

国立病院機構宮城病院
脳神経外科 部長

仁村太郎

資格

  • 医学博士
  • 日本脳神経外科学会 専門医および指導医
  • 日本脳卒中学会 専門医
  • 日本定位機能神経外科学会 技術認定医
  • 日本脳卒中の外科学会
  • Q箸を持ったときやパソコンを使う場面などで手が震えて困っています。医療機関を受診したいのですが、受診から治療までの大まかな流れを教えてください。

  • A手やからだが震える場合、まずは脳神経内科を受診してください。そこで、問診や血液検査、MRIを行い診断します。ふるえの原因として特に多い病気が、動いたときに震え、ふるえ以外の症状がない「本態性振戦」と、じっとしているときに震え、筋肉のこわばりなどふるえ以外の症状もある「パーキンソン病」です。これらの病気と診断されたら、まずは薬で治療を行い、場合によってはふるえを抑える手術を行うこともあります。

  • Q脳神経内科は聞き慣れませんが、どういう科ですか?

  • A脳や神経に関する病気を診る内科です。徐々に歩けなくなった、手をうまく動かせないなど「動きに症状が強い場合は脳神経内科」と思っていただけるといいでしょう。特に患者さんが多いのが脳卒中、てんかん、認知症、神経変性疾患(脳や脊髄の神経細胞が徐々に機能を失う病気)で、ふるえの原因の一つでもあるパーキンソン病は神経変性疾患に含まれます。

  • Q脳神経内科は、精神科や心療内科とは違うのでしょうか。

  • A精神科と心療内科は、うつ病や統合失調症など心の病気やそれに伴う症状を治療する科です。脳や神経の病気を扱う脳神経内科とは異なりますが、ふるえは緊張など精神的な理由で生じることがありますよね。そのため、ふるえの原因をストレスだと思い心療内科を受診、向精神薬を処方されたが改善しない…という若い患者さんも多くいらっしゃいます。

    もちろん、精神的な原因で症状が出ている場合もありますが、神経の病気の発見が遅れることもあるので、ふるえの症状で困ったらまずは脳神経内科を受診いただきたいですね。

  • Q脳神経内科の診察では何を聞かれるのですか?

  • Aどんな状況で震えやすいか、いつからふるえの症状があるか、現在飲んでいる薬はあるかなどを伺います。例えば、動いているときに震える、3年以上ふるえの症状がある、徐々にふるえが悪化している、などに当てはまる場合は本態性振戦が疑われます。

    また、下記の画像のような、ペンで線や文字を書く検査を行います。

本態性振戦と診断された患者さんが治療前後で書いたもの

本態性振戦と診断された患者さんが治療前後で書いたもの。
治療前は線をきれいになぞったりまっすぐ線を引いたりできていなかった。

問診と検査を合わせた所要時間は?

  • Qほかにどんな検査を行うのですか?

  • Aふるえは、ホルモンの異常で起こる甲状腺機能亢進症(バセドウ病)などによっても引き起こされます。それらの病気と区別するため、血液検査やMRIも行います。すぐ検査ができる医療機関であれば、問診と検査を合わせた所要時間は60分程度でしょう。

    MRIと聞くと大変な検査のように思われるかもしれませんが、あくまでほかの病気が隠れていないか確認するためのものです。閉所恐怖症をお持ちの場合など、不安がある場合はお気軽に医師へ相談してみてください。

本態性振戦の治療
  • Q大変な検査をするわけではないのですね。本態性振戦やパーキンソン病と診断された場合の治療内容を教えてください。

  • A大きく「薬物治療」「外科的治療」があります。

    本態性振戦と診断された場合、不整脈の抑制などに使うβ遮断薬(βブロッカー)という薬を使用します。半数の方はこの薬が効くのですが、残念ながら半数にはあまり効かないというデータ(※)があります。本態性振戦の患者数は日本人の約3%、つまり1億2500万人のうち375万人と言われており、その半分ですから単純計算で190万人に薬が効きづらいわけです。そうした患者さんには、外科的治療として手術を提案することもあります。

    パーキンソン病の場合は、残念ながら病気そのものを治す治療はありませんので、薬で症状を緩和するのが治療の目的です。具体的には、脳で不足しているドパミンを補う薬を服用します。本態性振戦と同じく、薬だけではふるえが改善しない患者さんには手術を検討します。

    手術では、脳からふるえを発生させる信号を出させないようにします。代表的なものに、頭に電極を植え込む「脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation : DBS)」と、病変を直接凝固する「高周波凝固術(Radiofrequency ablation: RF)」と、脳に超音波を当てて凝固する「MRガイド下集束超音波治療(Focused Ultrasound Surgery: FUS)」があります。どちらの手術にもメリット・デメリットがあるので、医師とよく相談するのが良いでしょう。

    ※出典:「日本神経治療学会指針作成委員会編集 標準的神経治療:本態性振戦」

  • Q手術には少し抵抗があります。SNSで調べたら病院に行くほどではないと書いてあり、受診を迷っています。

  • A先ほどお伝えした通り、すぐ手術することも、患者さんが希望しないのに手術することもありませんので安心してください。

    また、SNSには専門家でない人が語る真偽不明の情報もたくさんあります。自己判断せず、まずは受診して医師の判断を仰いでいただきたいです。受診がためらわれる方は、病院や医師会が出している正しい情報を見てみてください。当てはまる症状がある、日常生活で困っている場合は、お近くの脳神経内科に電話で相談していただくか、できれば意を決して病院に来ていただけると嬉しいですね。

本態性振戦の治療
  • Q安心しました。同じように受診をためらっている患者さんや、その周囲の方に知ってもらいたいことはありますか。

  • A個人的な話ですが、私は脳卒中患者が多い東北地方の大学出身だったことから脳神経外科を志し、現在はふるえなど脳の機能障害を扱う「機能外科」に携わっています。そこで驚いたのがふるえへの誤解です。脳卒中と違い命に直結しないからか、患者さんの苦しみが周囲に理解されていないと感じます。

    本態性振戦の若い患者さんは、周囲の人から「手が震えるなんてアル中だ、クスリをやっているんだ」と言われ、精神的に追い込まれてしまいました。ある患者さんは箸が持てないほどのふるえで、スプーンでかき込むように食事をしていました。患者さんの「犬のようで屈辱的だった」という言葉は忘れられません。

    ふるえのせいでつらいと感じているなら、「この程度の症状で…」などと思わず受診してください。患者さんの身近な方にもこうした苦しみを知っていただき、見守ったり支えたりしていただきたいです。箸が持てなかった患者さんは治療の結果、箸でラーメンが食べられるほど症状が改善し、大喜びされていました。ふるえが軽減することで、少しでも多くの患者さんが豊かな人生を過ごせるようになれば、医師としても嬉しいですね。